『夜想曲集ー音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』を読んだ感想
カズオ・イシグロの作品である『夜想曲集ー音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』を読みました。
ユーモアがたっぷりで、小説を読んでこんなに笑ったのは久しぶりです。
「がっはっは!」という感じではなく、「ふっ、ふふっ……!」と声を押し殺して笑っちゃう感じでした。
ということで、この作品を読んだ感想を書きます。
※多少のネタバレがあります。
どんな内容か
『夜想曲集ー音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』はカズオイシグロの著した短編集であり、5つの短編で構成されています。
5つの短編は、どれも「音楽」がテーマとなっています。
主人公が「老歌手」であったり、「ジャズ好き」であったり、「チェロ奏者」であったり。
そしてさらに、どの作品も「男女や恋人の間の不和」が鍵となった物語です。
冒頭から「登場人物の男女の仲が、なんだかうまく行っていない感じ」がひしひしと伝わってきて、ハラハラさせられてしまいます。
「音楽家」という単純じゃない生き方をする人たちが、単純じゃない関係を築いていく様は、なかなか私には想像できない世界にもかかわらず、切なくなってしまいました。
でも、重苦しい雰囲気はまったく無くて、とても楽しく読むことができました。
むしろ、くすっと笑えちゃいます。
すごく笑った
5つの短編のうち私が一番好きなのが、『降っても晴れても』です。
50歳ぐらいのジャズ好きが主人公の物語なんですが、その主人公が、古い友人夫婦に会いに行くところから物語が始まります。
最初に友人夫婦の、夫の方と会うのですが、なんだか様子がおかしい。
どうやら妻とうまく行っていないらしい。
そしてせっかく会いにきたというのに、「妻の機嫌をとっておいてくれ」という自分勝手な頼み事をして、友人は出張に行ってしまいます。
そこから、主人公の奮闘が始まるのですが……。
主人公が、もうダメダメすぎて笑っちゃいます。
やることなすこと、みんな裏目に出て何一つ解決できない。
ヘンドリックスに成りきって本を破るところとか、ブーツを煮たキッチンが見つかるところとか、もうすんごい笑った……!(ぜひみんなに読んでほしい。)
こんなに笑ったのは、漫画『へ~せいポリスメン!!』を読んだとき以来じゃないでしょうか(『へ~せいポリスメン!!』は私のお気に入りの漫画です。)。
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でも、主人公は友情を大切にするとても良いやつなんだな、というのがとても伝わり、なんだかほんわかしました。
カズオ・イシグロの笑いのセンス
私はこの作品の前に、同じカズオ・イシグロの作品である『日の名残り』を読んだのですが、それもとても面白かった。
読んでいてとても切なくなり、間違いなく私の人生観にも影響を与えた作品になり、私のお気に入りの一冊になりました。
私にとって『日の名残り』はそうした思い入れのある作品です。
ところがです。
「他の人はどういう感想をもっているんだろう?」とネットで検索してみると、「すごく笑った」「シュールな笑い」と書かれているブログを発見し、「いや、そんな笑えるような話じゃなかったでしょ! ぜんぜん作品を理解していない!」と憤りさえ感じてしまいました。
でも、『夜想曲集ー音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』を読んで、「シュールな笑い」というのが少しわかった気がします。
私なりに感じた言葉で評すると、「本人は実に真剣であるがゆえに、ちょっとずれていることに気づかないことで生じる笑い」でしょうか。
『夜想曲集ー音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』の最後についている作家・中島京子の解説を引用すると、「真面目なフリをして、笑いのツボをちょんちょんと突っついてくるのは、実はカズオ・イシグロの得意技だ。」とのこと。
私の方がカズオ・イシグロの作品をぜんぜん理解していなかったみたいですね。恥ずかしい限りです。
まとめ
『夜想曲集ー音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』は面白い。
ほかの作品も読んでみたくなりました。
文章も読みやすいものなので、ぜひオススメしたい作品です。